東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)61号 判決
事実及び理由
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
右当事者間に争いのない請求の原因二の本願考案の実用新案登録請求の範囲と成立に争いのない甲第二、第三号証によれば、本願考案の要旨は「上り湯・シヤワーのない循環式ふろ釜の管口部に円周形吸盤によつて給水給湯管を連結して上り湯温水シヤワーを得る接続器」にあることが明らかである。
これに対し、成立に争いのない甲第四号証によると、引用例には、「外釜の下部管に直接給水して外釜の上部管より浴槽へ入浴適温で給湯すると共に、その下部管路又は下部管路と上部管路に減圧弁を設け、浴槽内面の給水口と、又は給水口と給湯口とに下部管路又は下部管路と上部管路に接続する取付部材を当て、その部材の内側に設けた吸盤を緩衝機構を介して吸着することにより前記部材を浴槽内面に固定するように構成したことを特徴とする外釜付浴槽」が示されていることが認められる。
右事実によると、引用例には、上り湯・シヤワーのない循環式ふろ釜の管口部に吸盤によつて給水給湯管を連結して湯、温水シヤワーを得る接続器の構成が示されていることが明らかであり、この接続器の構成を本願考案の構成と対比すると、吸盤の構成につき、本願考案がこれを円周形吸盤とするのに対し、引用例のものでは「吸盤」とのみ記載され、これを円周形吸盤と限定していない差異があるほかはすべて一致するものであることが認められる。
そして、ある部材を他の部材に取り付けるための手段として円周形吸盤を用いることが本願出願前周知の技術であつたことは成立に争いのない乙第一ないし第四号証により明らかであるから、引用例の考案の吸盤を本願発明の円周形吸盤とすることに格別の考案力を要するものとは認められない。
二 原告は、引用例の考案が複雑な弁を有し、浴槽と一体をなす取付固定式であるのに対し、本願考案はかぶせ式であつて既製の浴槽に簡単に着脱できるという効果を有する旨主張する。
しかし、前掲甲第四号証によれば、引用例の考案における弁は給水過剰又は給水不足のため釜が破損されることを防止するための減圧弁であることが認められ、本願考案の構成と直接関係のない構成であることが明らかであるから、これをもつて本願考案と引用例の考案との構成上の差異とすることはできない。また、同号証によれば、引用例の考案における吸盤は取付部材の内側に設けられており、この吸盤を浴槽内面に着脱自在に吸着せしめて、取付部材を浴槽内面に固定するとともに、浴槽の清掃及び点検保守等のためこれを容易に取り外しすることができるようにしたものであることが明らかであるから、本願考案と同じくかぶせ式であつて既製の浴槽に簡単に着脱できる効果を有するものと認められる。原告の右主張は採用できない。
原告はまた、乙第一ないし第四号証に示される円周形吸盤は実用に適さない趣旨の主張をするが、本願考案における円周形吸盤は「円周形吸盤」であることのみを要件とし、吸盤の深さや口径、その材質等につき吸着力を上昇させるため特段の工夫をしたことを考案の構成とするものではないから、右周知の円周形吸盤と差異があるものとすることはできない。
三 以上のとおりであるから、審決が本願考案は引用例の考案と本願出願前周知の技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと判断したことは相当であり、審決にこれを取り消すべき違法の点は見当らない。
四 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註その一〕 本願考案の登録請求の範囲は左のとおりである。
上り湯・シヤワーのない循環式ふろ釜の管口部に円周形吸盤によつて給水給湯管を連結して上り湯温水シヤワーを得る接続器。